大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和43年(ワ)152号 判決

原告 栗原やゑ

被告 国

国代理人 野崎悦宏 外三名

主文

原告の本件確認の訴を却下する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

原告が、別紙目録記載の土地について所有権を有することを確認する。被告は原告に対し右土地を引渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

(本案前の申立)

「原告の本件訴を却下する。」との判決

(本案についての申立)

請求棄却の判決

第二、当事者双方の主張

(請求原因)

一、別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)はもと栗原寅三の所有であつたところ、同人は昭和三三年一二月二二日これを礒崎得寿に売渡し同三四年一月七日その旨の登記手続をしたが、さらに原告はこれを同三八年九月一一日同人から買受けてその所有権を取得し、同月一九日その旨の登記手続を経由したものであつて、現に原告の所有に属するものである。

二、しかるに被告は、次の経緯により本件土地を占有するにいたつた。すなわち、被告は、昭和一七年ごろ、旧陸軍航空通信学校附属飛行場敷地(以下本件飛行場敷地という)として本件土地を含む付近一帯の土地に対し買収計画を進めていたが、本件土地については買収交渉が進捗しないまま本件土地を含む付近一帯の整地工事が完了し、被告は本件土地を本件飛行場敷地として使用占有するにいたり、右栗原はこれを黙認していたので使用貸借関係が成立した。ところが被告は、昭和二〇年九月二日連合国に対し無条件降服し、旧軍当局の武装が解除されるに及び右使用貸借契約はその目的の消滅により終了したが、連合国は被告に対し、指令第一号附属一般命令第一号を発して本件土地を含む本件飛行場敷地を現状のまま良好なる状態にて保持すべき旨を命じたため、被告はそれにもとづき本件土地を占有管理することとなつた。その後、連合国は、被告に対し本件土地を含む本件飛行場敷地の処分権限を賦与したので、被告は本件土地を右権限により占有し、本件土地の土地台帳を閉鎖し、あらたに地番を付したうえ、旧自作農制設特別措置法(以下自創法という)にもとづいて売却処分に付した。

三、以上のように、本件土地は原告の所有に属するものであるのに被告は、これを占有しているのみならず、その帰属を争うから原告は被告との間で本件土地の所有権が原告に属することの確認を求めるとともに、被告に対し右所有権にもとづいて本件土地の明渡を求める。

(本案前の申立の理由)

一、本件土地を含む本件飛行場敷地の土地台帳及び附属地図(公図)はすでに閉鎖され、未墾地としてあらたに地番を設定したうえ、自創法第四一条により昭和二五年二月一日西沢国太らに売渡され、以後同人らが本件土地を農地として占有耕作しているものであり、被告がこれを所有かつ占有しているものではない。そして、原告が本件土地所有権の確認を求めうるのは、被告に対する関係で原告の法律上の地位の不安定が存し、それを除去するために被告との間で本件土地所有権の存否を確認訴訟によつて確認することが適切且つ必要である場合に限つて許さるべきものであるところ、前示のとおり被告は本件土地を所有も占有もしていないのであるから、被告との間で本件土地所有権の存否を解決すべき実質的な利益はないのみならず、被告に対し本件土地の明渡をあわせて請求している本件においては、この給付の訴のほうがより抜本的な紛争の解決に役立つのであるから、原告の被告に対する本件確認の訴は確認の利益を欠く不適法なものとして却下さるべきである。

二、さらに、本件土地は旧土地台帳並びに公図はすでに閉鎖され、現在においては従来のものとは別にあらたな地番が設定されているため、本件土地は現存しないばかりでなく、現在の登記簿および公図上のどの部分が本件土地に該当するのか全く不明であつて本件土地を現に特定することは不可能である。従つて、請求の対象が特定されない以上、どの範囲の明渡を求め、強制執行をすべきなのか不明確であり、強制執行による事実的実現は期待しえず、それを背後に予想している給付訴訟の性質からすれば、強制執行が不可能であることの客観的に明白な本件給付の訴も前同様却下されるべきである。

(請求原因に対する被告の認否)

一、請求原因第一項の事実のうち、本件土地はもと栗原寅三が所有していたことおよび原告主張の如き所有権移転登記の経由されていることは認めるが、その余の事実は否認する。

二、請求原因第二項の事実のうち、被告は昭和一七年ごろ陸軍航空通信学校附属飛行場用地として本件土地を含む付近一帯の土地に対し買収計画を進めていたこと、被告は本件土地を含む一帯に対する整地工事を完了しそれを本件飛行場敷地として使用占有するにいたつたこと、本件土地を含む本件飛行場敷地等の土地台帳を閉鎖し、自創法にもとづき本件土地を売却処分したことは認めるが、その余の事実を否認する。すなわち、被告は同一七年ごろ本件土地を右栗原より買受けてこれを本件飛行場敷地として占有使用していたものであり、昭和二五年二月一日自創法第四一条にもとづき西沢国太らに売渡し、引渡しをしたのであるから、被告は現在本件土地を占有していない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

第一、本案前の申立に対する判断

一、被告は、すでに本件土地についての所有権を有しておらず、又これを占有していないのであるから、被告に対する関係において本件土地の所有権の帰属を争う実質的な利益はないのみならず、又給付の訴をあわせて提起している本件にあつては、その方がより抜本的な紛争の解決になるのであり、本訴は確認の利益がない旨主張するので、この点につき検討する。

確認の訴を提起するには、確認を求める法律上の利益あることを要し、その法律上の利益ありというには、権利または法律関係の存否を終局判決によつて即時確定することが原告の法律的地位の不安定を除去するに有効かつ適切である場合をいう。そして、判決の効力は原則として訴訟当事者にのみ及ぶものであるから、原告はかかる利益の実効的帰属をおさめうる者に対する関係において該法律関係の存否を訴求しうるのであつて、換言すればかかる者を被告とするのでなければ確認の利益も存しないというべきである。

ところで本件において原告は、本件土地所有権は自己にあるが、被告は昭和一七年ころ栗原寅三からこれを取得したとして、その後自創法にもとづき第三者らに売却してしまつたと自ら主張しているのであつて、このことに関する限り被告自身も同旨の主張をしているものである。しからば、この主張からみるかぎり、要するに被告は過去の一時点においてはともかく、現在土地所有権は第三者に属するといい、その反射的効果として現在の原告の所有権を認めないというだけのことに帰すると解せられる。そして、本件土地登記簿によれば、原告主張の如き所有権移転登記が経由されており、被告所有名義の記載はなく、この点に関しては被告も別段争つていない。そうすると、被告において本件土地を占有しているとか(後記認定の如く被告が占有しているとは認め難い)、右登記簿の記載をくつがえす反証をあげる等して原告の所有権を積極的に否定しているとかいうような特段の事由が存するならばともかく、かかる事由の存しない本件においては、被告の右否定によつて生ずる原告の法的地位の不安定も潜在的なものにすぎず、現在即時有効適切な権利救済を妨げているものとはいいがたい。従つて、被告に対する関係において本件土地所有権が原告に属することを確定したとしても、原告の地位に何ら加えるところはなく、終局判決による即時確定の法律上の利益を欠くこと明らかであつて、被告との間で本件土地所有権の確認を求める本件確認の訴は不適法として却下すべきものである。

二、さらに被告は、本件土地は現在の登記簿及び公図では特定できないのであるから、強制執行による事実上の実現が不能である以上、給付の訴も不適法として却下すべきであると主張する。

給付訴訟は、強制執行による権利の実現を背後に予想しており、両者は緊密の関係にあることは多言を要しないが、強制執行は給付判決の要件をなすものではないから、当該訴訟において給付を命ずることが事実上無意義であることが客観的に明白でない限り、給付訴訟の訴の利益は肯定されるべきである。そして、これを本件についてみると、本件土地を含む一帯の土地の土地台帳並びに附属公図が閉鎖され、自創法第四一条による売渡処分がなされたさいにあらたに地番が設定され、公図も作成されたうえ原始的に所有権保存登記がなされた事実は、〈証拠省略〉に弁論の全趣旨を綜合して認められるところであるが、たんに旧土地台帳並びに旧公図が閉鎖され、あらたに地番が設定され、公図が作成されただけでは、本件土地が現存しなくなつたといいえず、旧公図および新公図その他一切の資料を使用すれば、本件土地を現実に特定することもあながち不可能ではないのであるから、本件給付訴訟において給付を命ずることが無意味であるとは断じえず、従つて、本件給付訴訟が不適法であるとする被告の右主張は採用しえない。

第二、本案についての判断

よつて、進んで本案について判断するに、本件土地はもと栗原寅三が所有していたこと及び同人より礒崎得寿に対し昭和三四年一月七日、さらに同人より原告に対し同三八年九月一九日各所有権移転登記手続がなされている事実は当事者間に争いがない。〈証拠省略〉を綜合すると、被告は本件土地を含む一帯に対し、あらたに水戸市酒門町字西割四、四二五番、同四、四六六番の一、二、同四、四六七番、同四、四六八番、同四、四八五番、同四、四八六番、同四、四八七番、同四、五五二番の一ないし三なる地番を設定し、昭和二五年二月一日自創法第四一条にもとづいてこれらの土地を未登記の国有地として、同四、四二五番の土地を西沢国太に、同四、四六六番の一、同四、四六八の土地を渡辺けさじに、同四、四六六番の二の土地を井出昭三に、同四、四六七番の土地を篠原行雄に、同四、四八五番の土地を新津寅雄に、同四、四八六番の土地を内藤正九に、同四、四八七番、同四、五五二番の一ないし三の土地を水南開拓農業協同組合にそれぞれ売渡し、同四、四二五番、同四、四六六番の二、同四、四六七番、同四、四六八番、同四、四八五番、同四、四八六番、同四、四八七番の各土地については水戸地方法務局昭和二九年四月二六日受付第一七七一号をもつて、同四、四六六番の一の土地については同法務局同三二年五月九日受付第四二〇三号をもつて、同四、五五二番の一ないし三の各土地については同法務局同四〇年六月九日付第一五、七一七号をもつて各土地所有権保存登記がなされていること、その後、右各土地のいくつかは分筆されたうえ売買、贈与等により所有者に変更があつたことの各事実が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠は存しない。

以上に認定した事実によれば、本件土地は、昭和二五年二月一日自創法第四一条にもとづいて農業に精進する見込のある者等に売渡されたのであり、現にそれを占有しているのは売渡を受けた右渡辺けさじらであると推認するのが相当であつて、被告が現に本件土地を占有しているとは認められない。

従つて、被告の本件土地の取得及び自創法にもとづく売渡が適法有効であるか否かに関せず、被告が現に本件土地を占有していない以上、これを占有していることを前提とする原告の被告に対する本件土地の明渡し請求は理由がない。これを要するに、原告がその主張するが如き所有権についてその救済をはかろうとするならば、別途の工夫をするほかないのである。

第三結論

よつて、原告の被告に対する本件土地所有権確認の訴は不適法としてこれを却下し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 太田昭雄 星野雅紀)

別紙目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例